さくらんぼの受粉の必要性とその理由
(1) さくらんぼの生態と受粉について
さくらんぼは、一般的には春の初めに花を咲かせ、その後果実を結実します。その結実のためには受粉というプロセスが欠かせません。その受粉とは、言うなれば植物が子孫を残すための繁殖行動で、男性器官から生じる花粉が女性器官の柱頭へと運ばれることで、次世代を担う種子が形成されます。
さくらんぼの場合、自己不和合性という性質を持つ品種が多く、同じ品種の花粉では受粉せず、異なる品種の花粉が必要となります。これを他家受粉といいます。ですが、さくらんぼにも自己受粉可能な品種が存在し、その一本でも実を結びます。これについては次に詳しく説明します。
(2) 自家受粉と他家受粉の違い
自家受粉とは、同じ植物の花の雄しべ(花粉を作る部分)と雌しべ(卵細胞を作る部分)が受粉することを言います。自家受粉が可能な品種は、一本だけでも果実を結ぶことが可能で、栽培が容易です。一方、他家受粉とは、異なる個体の花の雄しべから飛んだ花粉が、別の個体の花の雌しべに到達し、受粉することを指します。他家受粉が必要な品種は、さくらんぼの樹同士が近接していること、風や虫による花粉の移動が活発であること等が求められます。自家受粉に対して他家受粉品種は栽培に手間がかかりますが、多様な遺伝情報の交換によりより健康で強い果実が得られる可能性があります。
自家受粉可能なさくらんぼの品種紹介
(1) 一本で結実するさくらんぼの品種
さくらんぼは概ね他家受粉と言われる果物ですが、一本で結実する自家受粉可能な品種も存在します。その一例として「紅秀峰(こうしゅうほう)」が挙げられます。紅秀峰は、大粒で甘露糖度が高く、しかも自家受粉性に優れているため、一本でも十分に結実します。これは、初めてさくらんぼの栽培に挑戦する方にとって、大変魅力的な特性と言えるでしょう。また、他にも「早摘(はやつみ)」や「佐藤錦(さとうにしき)」も自家受粉性があるとされています。ただし、佐藤錦の場合、より豊穣に結実させるためには、他家受粉が望ましいとも言われています。
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※2024年4~6月のデータ(2) 「高砂」の自家受粉性について
さくらんぼの品種には自家受粉するものとしないものがございます。その中でも「高砂」は、一本で結実する自家受粉品種として知られています。そのため、「高砂」は他の品種と同居させずとも、単体で栽培しても良好な収穫が期待できます。しかし、実際には他の品種と一緒に栽培することで、さらに良い結果が見込めます。これは、他家受粉した場合の方が果実の大きさや甘みが増すためです。
したがって、「高砂」を一本だけで栽培したい場合でも、可能であれば他の品種と一緒に植えることをお勧めします。これにより、さらに美味しいさくらんぼを収穫することが可能となります。
(3) 異なる品種同士での受粉の可能性
さくらんぼの品種には自家受粉するものと他家受粉するものがありますが、さらに興味深い事実として、異なる品種同士でも受粉可能なケースが存在します。特にさくらんぼの代表格である「佐藤錦」は他家受粉型で、自身の花粉では受粉せず、異なる品種の花粉が必要となります。
例えば、「大将錦」や「月山錦」といった品種の花粉を用いることで、佐藤錦の実が結実します。これらの品種は同じ「八重桜系」に属する種類で、遺伝的な親和性が高いとされています。このように、同じ系統のさくらんぼ同士は受粉しやすい傾向にあります。
しかし、全ての品種が全ての品種と相性が良いわけではないため、異なる品種同士で受粉させる際は、事前にその組み合わせが適切であるか調査することが重要です。
人工授粉の手順とコツ
(1) どの時期に人工授粉を行うか
さくらんぼの人工授粉に最適な時期は、花が咲き始めてからです。これは通常、春季の初めから中旬にかけてとなります。具体的には、5月上旬から中旬頃が目安とされています。
さくらんぼの花は一つの花束につき、たくさんの花が一緒に咲きます。しかし、全ての花が同時に開花するわけではなく、順番に開花します。そのため、人工授粉を行う際は、開花してから1~2日経った花を選びます。これは、花粉が最も活性化し、受粉成功率が高まる時期だからです。
また、さくらんぼの花は一日でしぼんでしまうため、早朝から昼にかけて行うことが推奨されています。特に晴れた日が最適とされており、雨天では花粉が流れ落ちてしまい、受粉がうまくいかない可能性があるためです。
(2) 必要な道具とその使用方法
人工授粉を行う際には、主に以下の3つの道具が必要とされます。
- ブラシ:さくらんぼの花粉を取り扱うためのブラシです。柔らかいものを選び、花粉を傷つけずに取り扱うことができます。
- 容器:採取した花粉を保存するための容器です。可能な限り清潔に保ち、花粉が風で飛ばされないようにすることが重要です。
- はしご:高い位置の花へ受粉を施すためには、はしごが必要となります。安全性を考慮し、安定したはしごを選びましょう。
使用方法は、まずブラシを使って花粉を採取し、容器に移します。その後、同じブラシを使って別の花の雌蕊に花粉を付けていきます。これを繰り返すことで人工受粉が行われ、一本の木でも結実させることが可能となります。
(3) 人工授粉の具体的な手順
さくらんぼの人工授粉の手順は以下のとおりです。
- 受粉用の花を準備します。満開になった花を選び、雌しべが見えるように花びらを取り除きます。
- 授粉用の花を準備します。花粉が黄色く見える満開の花を選び、花びらと雌しべを取り除き、雄しべだけにします。
- 授粉用の花の雄しべを受粉用の花の雌しべに触れさせます。これにより、花粉が雌しべにつきます。
以上が基本的な手順ですが、さくらんぼの種類や気候により最適な手順は異なる可能性もあるため、詳細は専門家の指導を受けるか、信頼できる栽培ガイドを参照しましょう。
さくらんぼの栽培環境について
(1) 暖地でもさくらんぼは育つのか
さくらんぼの栽培における環境条件は、品種による違いがありますが、一般的には冷涼な気候を好むとされています。したがって、寒冷地や高地での栽培が一般的です。
しかし、最近では暖地でも栽培可能な品種が開発されており、全国各地でさくらんぼの栽培が行われています。例えば、「南高」や「大将錦」などは暖地でも栽培可能な品種として知られています。
それでも、暖地におけるさくらんぼの栽培には工夫が必要です。栽培地の選定や品種選び、さらには水やりの量やタイミングなど、細かな管理が求められます。また、暖地での栽培では、病害虫対策も重要となります。
暖地でもさくらんぼを栽培する際は、これらの点を念頭に置きながら取り組むことが大切です。
(2) さくらんぼ栽培に適した土壌とは
さくらんぼの栽培には、土壌が非常に重要な役割を果たします。土壌はさくらんぼの根が栄養を吸収するための直接的な場所であり、その質と状態が結実に影響を及ぼします。
より良い成果を得るためには、水はけの良い砂質土壌が最適とされています。水はけが良い土壌は、余分な水分を排除し、根腐れの予防に役立ちます。また、有機物を豊富に含む肥沃な土壌が望ましいです。これはさくらんぼが必要とする栄養分を十分に供給することができます。
ただし、あまりに硬い土壌では、根が成長しづらくなるため、軽い土壌を好む傾向にあります。したがって、粘土質の土壌で栽培する場合は、砂や有機物を混ぜて改良することが推奨されます。
5. まとめ:初心者でもできるさくらんぼ栽培のコツ
さくらんぼの栽培は初心者でも挑戦できる楽しい趣味です。重要なポイントは適切な品種の選択と、受粉の方法の理解です。自家受粉可能な品種を選べば、一本だけでも収穫が期待できます。例えば「高砂」は自家受粉性があり、一本で充分に実を結びます。
また、人工授粉を行う場合は、適切な時期と道具を用意することが重要です。さらに、暖地でも栽培が可能なため、気候条件を気にする必要はありません。土壌はドレナージの良いものを選ぶと良いでしょう。これらのポイントを押さえて、さくらんぼ栽培にチャレンジしてみてください。
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【引用元】バイオスティミュラント 活用による 脱炭素地域づくり協議会
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