はじめに
家庭菜園を始めて、最初につまづいてしまうのが土づくりという方も多いのではないでしょうか。肥料や堆肥はともかく、なぜ石灰をまかなきゃいけないのでしょうか。そんな家庭菜園における石灰のイロハについて解説していきます。
野菜の栽培に適した土壌とは
野菜の栽培に適した土壌は、一般的に「物理性」「化学性」「生物性」に優れた土だと言われています。「物理性」は水はけや通気性、「化学性」は肥料分や土壌酸度、「生物性」は土壌動物や土壌菌類のことを指しています。詳しく知りたい方は以下の記事からチェックしてください。
肥料焼けってなに?肥料の過剰障害 | AGRIs
ついつい良かれと思って肥料をたくさん与えてしまうと逆に株が弱ってしまうことがあります。こうした養分の過剰による生理障害の一つに肥料焼けがあります。この記事では肥料焼けの症状や原因、予防法・対処法を解説します。
https://www.agri-smile.app/articles/fertilizer-excess
化学性の中でも土壌酸度は、植物の栄養吸収のしやすさにも関わる重要な要素です。最適な土壌酸度を保つことで野菜は良く成長します。
弱酸性土壌で野菜は育つ
野菜ごとに差はありますが、おおむねpH5.5~6.5の弱酸性で良く育つことが知られています。弱酸性の土壌だと、土の中に含まれる栄養素が化学的に植物に吸収されやすい形になるためです。土壌酸度のメカニズムについてさらに知りたい方はこちらの記事からどうぞ
土のpHに注意しよう!土壌酸度のイロハ | 産直プライム.labブログ
園芸書には「土壌のpHは6.0から6.5にしましょう」とよく書かれていますが、そもそもpHは何を表しているのでしょうか。野菜ごとに異なる土壌酸度を好むメカニズムを科学的に解説します。また、土壌酸度を調整するための方法を紹介します。
https://sanchoku-prime.com/lab/articles/soil-ph
石灰をまく理由
家庭菜園で畑に石灰をまく理由は、弱酸性土壌にするためです。畑の土は雨によって少しずつ酸性になっていきます。日本では降雨が多いため、長期間管理していない畑ではpHが4~5程度の酸性になっていることがあります。アルカリ性を示す石灰をまくことで、畑の土を弱酸性に戻します。
加えて、石灰には微量元素を補う効果もあります。一般的な石灰資材である苦土石灰にはカルシウムやマグネシウムといった植物に必要な微量元素が含まれています。植物の生育にたくさん必要なわけではありませんが、欠乏すると生理障害を起こしてしまうため、定期的に補給する必要があります。
こうした理由から、土づくりでは石灰をまくことが推奨されています。ただし、土壌がすでに弱酸性になっている場合にはまく必要はありません。
石灰の種類は大きく3種類
ホームセンターには色々な種類の石灰資材が置いてあります。よく使われる石灰は大きく分けて3種類で、苦土石灰、消石灰、有機石灰です。
苦土石灰
苦土石灰は、家庭菜園では最もメジャーな石灰です。天然の鉱石であるドロマイト原石を粉砕して作られます。マグネシウム(苦土)を含むため、微量元素の補給も兼ねることができます。
消石灰に比べてやや遅効性のため、植え付けの1か月前に施用するのが一般的です。
主成分の化学式はCaCO3・MgCO3で表されます。
消石灰
消石灰は、強い酸性中和力を持つ石灰です。天然の鉱石である石灰石を加熱した後、水を加えることで作られます。即効性の高い石灰資材ですが、急激に変化するため扱いには注意が必要です。
消石灰を施用した後2週間程度は、他の肥料をまかず、植え付けもおこなわない方がよいでしょう。
主成分の化学式はCa(OH)2で表されます。
有機石灰
有機石灰は、緩効性の石灰です。鉱石ではなく、貝殻を砕いて作られます。牡蠣殻が使われていることが多いです。酸性中和効果は高いわけではありませんが、それゆえに失敗しにくいため園芸初心者が好む場合があります。
ゆっくりと効き土壌環境が急激には変わらないため、施用後すぐに植え付けることが可能です。
主成分の化学式はCaCO3で表されます。
その他
石灰資材は上記の3つ以外にもいくつも種類があります。
生石灰(CaO)は石灰石を加熱して作られる資材で、最も酸性中和度が高い資材です。消石灰と同様に扱いに注意が必要になります。
ギプスにも使われる石こう(CaSO4)や過リン酸石灰(Ca(H2PO4)2)、炭酸石灰(CaCO3)といった石灰資材があります。
石灰資材の選び方
たくさんある石灰資材の中から自分の畑に必要なものはどう選んだらよいでしょうか。
基本は苦土石灰
多くの園芸書で推奨されている通り、基本的には苦土石灰を使用するのが無難です。微量元素であるマグネシウムを同時に補給することができ、効きが強すぎないため失敗しにくいからです。
また、苦土石灰は有機JASにも適合している商品が多いです。有機農法でやっていきたい方でも使うことが可能です。
石灰は有機肥料?化学肥料?
有機石灰のみが有機肥料と捉えられることもありますが、ほとんどの石灰資材は天然鉱石を粉砕しただけであり、有機JASに適合しています。
一方で、石灰の中でも、他の肥料や原料の副産物として作られる副産石灰や混合石灰は、化学的処理をおこなっていて有機JASに適合しない場合があります。
状況によって使い分ける
畑の状況によって使い分けることも大事です。急激に土壌酸度を変化させなければいけない場合には消石灰や生石灰を使う必要があります。また、ゆっくりと効かせたい場合やカルシウムだけ補給できれば良い場合には有機石灰を使用するのも良いでしょう。
石灰はまきすぎてしまうと手遅れになってしまうため、十分注意して施用するようにしてください。
苦土石灰の撒きすぎはNG?適量と、撒きすぎてしまった時の対処法 | 産直プライム.labブログ
土壌pH、土壌酸度の改善のためにまく苦土石灰などの石灰資材。苦土石灰の適切な量はどれくらいなのか、まき過ぎてしまったらどんな問題が起こるのか、対処法はあるのか。そうした疑問を詳しく解説します。
https://sanchoku-prime.com/lab/articles/lime-excess
終わりに
今回は石灰の種類と選び方について紹介しました。土壌酸度を適切に保つことで野菜はぐんぐん成長します。収穫が楽しみですね。
本サイトの有料会員にご登録いただくと、600以上のプロ農家さんの栽培動画が見放題です。ぜひこの機会にご登録してみてはいかがでしょうか。