論文について
論文タイトル
Biostimulant activity of Galaxaura rugosa seaweed extracts against water deficit stress in tomato seedlings involves activation of ABA signaling.
(トマト苗の水不足ストレスに対するGalaxaura rugosa海藻抽出物のバイオスティミラント活性には、ABAシグナル伝達の活性化が関与している)
著者と所属
Sarai Morales-Sierra1, Juan Cristo Luis1, David Jime´ nez-Arias2, Nereida M. Rancel-Rodrı´guez3, Alberto Coego4, Pedro L. Rodriguez4, Mercedes Cueto5 and Andre´s A.
1Grupo de Biología Vegetal Aplicada (GBVA), Departamento de Botánica, Ecología y Fisiología Vegetal, Facultad de Farmacia Universidad de La Laguna, La Laguna, Tenerife, Spain
2Departamento de Producción Vegetal en Zonas Tropicales y Subtropicales, Instituto Canario de Investigaciones Agrarias (ICIA), La Laguna, Tenerife, Spain
3Grupo BotMar-ULL, Departamento de Botánica, Ecología y Fisiología Vegetal, Facultad de Farmacia Universidad de La Laguna, La Laguna, Tenerife, Spain
4Instituto de Biología Molecular y Celular de Plantas, Consejo Superior de Investigaciones Científicas, Universidad Politécnica de Valencia, Valencia, Spain
5Departamento de Ciencias de la Vida y de la Tierra, Departamento de Productos Naturales y Sintéticos Bioactivos, Instituto de Productos Naturales y Agrobiología (IPNA-CSIC), La Laguna, Tenerife, Spain
発表雑誌
Frontiers in Plant Science 2023, 14, 1251442. doi: 10.3389/fpls.2023.1251442.
論文の内容
水不足は農業にとって深刻な負の要素であり、気候変動による地球温暖化は多くの地域で水不足を悪化させる可能性があります。したがって、現在および将来の水不足に対処するためには、持続可能な対策を実施しなければなりません。今後、水不足による生産制限を管理し作物の収量を維持するために、新規の遺伝的・化学的アプローチ技術が開発され、広まっていく必要があります。
特に、海藻などの天然資源から製造されるバイオスティミラント資材は、農業における水不足に対処するための有望な補助資材として使われ始めています。すでに海藻抽出物を用いた液体肥料が使われていますが、主要な活性を示す化学的成分の同定には至っていないのが現状です。
この論文では、カナリア諸島のテネリフェ島北岸に生息する9種類の海藻Bonnemaisonia hamifera、Galaxaura rugosa、Dasycladus vermicularis、Ulva clathrata、Cystoseira foeniculacea、Cystoseira humilis、Lobophora dagamae、Colpomenia sinuosa、Halopteris scopariaの抽出物に関する生物学的な研究について紹介されています。
まず、B.hamifera、G.rugosa、D.vermicularis、Cystoseira humilis由来の水性抽出物を与えたトマト苗と抽出物を与えていない対照トマト苗の水不足ストレスに対する耐性を比較しました。その結果、水量が制御された条件下で、それらの抽出物を与えたトマト苗は、対照トマト苗よりも水不足ストレスに対する高い耐性を示しました。特に、赤色藻類であるG.rugosa抽出物は、水不足ストレスに対する効果を発揮させる最も高い生物刺激活性を示すことがわかりました。
著者らの研究は、このG.rugosa抽出物の水不足に対するポジティブな効果が、モデル植物であるシロイヌナズナとトマトにおけるアブシジン酸(ABA)経路の活性化に関与していることを実証しました。ABAは乾燥や塩ストレスなどの環境ストレスに応答するために必要な植物ホルモンの一つです。シロイヌナズナ苗にG. rugosa抽出物を与えると、ABA濃度の上昇によって発現誘導される遺伝子群が発現誘導されることを示しました。また、トマト苗の根系にG. rugosa抽出物を散布すると、散布していない対照のトマト苗と比較して、炭素同化(光合成で二酸化炭素を原料として有機物を合成すること)と水利用の効率、そして生長が改善されました。
著者らは、各海藻抽出物に含まれる成分を、NMR(核磁気共鳴)スペクトル解析を用いて同定することを試みました。その結果、G.rugosa抽出物には、藻類抽出物に多いタウリン類(陸上植物には存在しない)、ベタイン類(グリシンのアミノ基に3つのメチル基が付加した化合物の総称)、ギ酸などが含まれることがわかりました。しかし、それらの成分が主要成分であるかは現時点では不明で、複数成分の相乗効果として水不足に対する効果が発揮されているのかもしれないとのことです。
本論文で得られた成果は、海藻、特にG.rugosa抽出物が、浸透圧保護特性を持つ新規バイオスティミュラント資材の開発のための新たな供給源となりうることを示唆しました。今後の研究では、海藻抽出物中のどの成分がABA経路の活性化を誘導するかを明らかにしていくつもりであると書かれていました。
コメント
近年、海藻を原料として製造されたバイオスティミュラント資材が乾燥ストレス緩和の目的で使われるようになってきました。しかし、活性に関与する主要成分がはっきり同定されているわけではありません。本論文は、当初、水不足ストレスに対して活性を示す海藻抽出物の成分を比較して、活性成分を同定したかったのだと考えられます。G.rugosa抽出物に含まれるタウリン類やベタイン類は、生体内の浸透圧を維持する効果を付与することが知られています。水不足つまり乾燥ストレスは浸透圧ストレスを誘発するため、これらの化合物の水不足ストレスへのポジティブな効果への関与が疑われます。これらの成分の植物への添加がABA経路を活性化できるのか、乾燥耐性を付与できるのかまで検証されていると研究の完成度が上がったと思われ、少し残念なところです。また、海藻抽出物にABAが含まれているのか、抽出物を与えた植物の中でABA濃度の上昇があったのかを明らかにしてほしかったです。
藻類の中には、大量増殖が困難な種が多く存在し、G.rugosaがどうなのかは記載されていませんでした。効果が有れども、バイオスティミュラント資材として製品化する上で製造コストが高くなり過ぎないか検討が必要と思われます。