土壌の栄養の基本知識!栄養素が欠乏するとどうなる?
土壌中の栄養素とは?その役割は?
土壌中の栄養素は、植物の生育に不可欠な栄養を提供しています。植物の生長、代謝、機能を維持するのに役立ち、作物の収量と品質を維持するうえで欠かせない存在です。
土壌中の栄養素を植物が必要とする量に基づくと「主要栄養素、二次栄養素、微量栄養素」の3種類に分類することができます。
主要栄養素(3種類)
植物が大量に必要とし、生育に不可欠な栄養素で、「窒素、リン、カリウム」のことを指します。ちなみにこの三つをまとめて肥料の三要素と呼ぶので知っておくといいでしょう。
窒素(N)
植物の成長と葉の緑色を保つのに重要な役割を果たします。
葉や茎などの植物体を構成するたんぱく質や核酸、葉緑素の合成に必要です。
不足すると、葉が淡黄色となり、植物全体に元気がなくなります。
リン(P)
根の発育や花芽の形成に影響を与えます。エネルギー転送や貯蔵、DNAやRNA、ATP(アデノシン三リン酸)などの重要な分子の構成要素です。
不足すると着果数が減少し開花・結実も遅延します。
カリウム(K)
植物の生長、花芽・果実の形成、耐病性の向上などに関与し、酵素活性の維持や水分バランスの調節に重要です。
不足すると古い葉の先端が黄化し、根は主根付近のみに形成され、側方の根の生長が制限されます。
これらの土壌栄養素は、バランス良く供給されることで、植物の生育や収穫物の質・量が大きく向上します。
二次栄養素(3種類)
主要栄養素よりは少量だが、植物の成長に重要な栄養素です。カルシウム、マグネシウム、硫黄が含まれます。
カルシウム(Ca)
根の成長や果実の形成にも影響を与えます。植物の細胞壁の構成要素であり、細胞分裂や構造、機能の維持に重要です。
不足すると、生長の盛んな若い葉の先端が白化し、やがて褐色枯死します。
マグネシウム(Mg)
葉緑素の構成要素であり、光合成や酵素活性に関与し、植物の光合成、呼吸、エネルギー移動に影響を与えます。
不足すると、果実付近の葉が黄化します。葉脈間がイネ科植物では筋状に、広葉植物では網目状の黄化が生じます。
硫黄(S)
タンパク質の構成要素であり、アミノ酸や細胞の代謝に関与し、植物の成長、花や果実の形成に重要です。
不足すると、全体的に生長が悪くなり、窒素欠乏と似てます。
微量栄養素(8種類)
ごく微量しか必要とせず、欠乏すると問題が発生する栄養素。鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデン、ホウ素、塩素、ニッケルが含まれます。
鉄(Fe)
葉緑素の合成に欠かせず、光合成や呼吸などの酵素の構成要素でもあります。酵素の働きを活性化させる重要な役割を担っています。
不足すると、新葉が黄色化します。また、トマトの尻腐れ、キャベツやハクサイなどの芯腐れが発生。
マンガン(Mn)
光合成に関与し、光合成反応の酵素に必要な成分の一つです。また、窒素の代謝にも影響を与えます。
不足すると、葉が小型になり、新葉がしま状や斑点状に黄化します。
亜鉛(Zn)
植物の成長に重要な影響を与える微量栄養素で、DNA合成、ホルモンの制御、光合成などに関与します。
不足すると、葉脈間が黄化し、明瞭なしま状になります。
銅(Cu)
クロロフィルの形成に関与し、酵素の機能、光合成、呼吸、果実の発育に影響を与えます。
不足すると葉に黄白化、褐変、よじれなど、果樹には枝枯れが生じます。
ホウ素(B)
細胞壁の形成、葉緑素の合成、種子の発芽などに関与し、植物の成長と代謝に必要な栄養素です。
不足すると生長点が止まり、もろくなって芯止まりや芯枯れとなります。また、茎や葉の中心が黒くなり、葉柄がコルク化します。
モリブデン(Mo)
窒素の代謝に不可欠で、窒素を植物が吸収・利用する過程に関与します。
不足すると、旧葉から症状が現れ、広葉植物では葉縁が内側に巻いてスプーン状になり、イネ科植物では葉がよじれます。
塩素(Cl)
光合成反応やガス交換、電子伝達系などに影響を与え、植物の光合成とエネルギー生産に重要な役割を果たします。
不足すると葉の先端が枯れ、やがて青銅色に壊死します。
ニッケル(Ni)
尿素をアンモニアに分解する酵素(ウレアーゼ)の構成元素です。
不足すると葉が黄化し、白く枯れます。
ここまで、土壌中の栄養素についての基礎知識を紹介しました。栄養素により必要な量や役割は異なりますが、どれも植物の生育にとって重要な役割を果たしていますね。
次の項では、実際にこれらをどのように利用すれば良い作物を作ることが出来るのか、ということについて紹介していきます!
作物に肥料を与えよう!
土壌中の栄養をが、適切な量で存在することで植物の健康を守ることが出来ます。そこで必要なのが「肥料」ですね。
肥料の与え方
主要栄養素の与え方
主要栄養素は、野菜によってどんなバランスの肥料を使用するかが大きく変わってきます。コチラの記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください!
二次栄養素の与え方
カルシウム、マグネシウム、硫黄は土壌中に自然に存在していますが、通常は植物が吸収できない鉱物という形態で存在している場合も多いため、肥料として与えるのが良いでしょう。
作物の症状をみながら、もし欠乏していル栄養素があればそれを中心に施肥しましょう。
主要栄養素の複合化成肥料にバランスよく配合されていることもあるので、その場合は別で施肥する必要はありません。
微量栄養素の与え方
微量栄養素は、複合化成肥料に含まれていることは少ないので、別で微量栄養素が含まれる複合化成肥料や堆肥を施肥するとよいでしょう。また、土壌改良によって微生物の働きを活発にさせることでそれらの栄養素を補うことが可能でしょう。
土壌改良についてはコチラの記事を参考にしてチャレンジしてみてください。
土壌栄養素を最適化するポイント
栄養素を補給するときのポイントは、肥料の知識をもつことと、植物の様子を見ながら施肥することですね。
また、定期的に土壌テストを行い、土壌の栄養状態を知ることは非常に効果的でしょう。これにより、どの栄養素が不足しているかを把握し補う方針を立てることができますね!
いま注目したい!環境と調和した農業を目指して
土壌栄養と環境問題の関連性
土壌中の栄養素と環境問題は密接に関連しています。
土壌栄養管理をしないと生じてしまう環境問題はこんなにもあるのです。
持続不可能な農業
過剰な化学肥料や不適切な栄養補給は、土壌の質を悪化させ、生態系への悪影響をもたらします。持続可能な農業では、土壌の栄養を適切に管理し、土壌の生態系を保護することが重要です。
土壌劣化
不適切な栄養補給や過剰な農薬の使用は、土壌の劣化を引き起こします。これにより、土壌の保水性が低下し、生態系への影響が拡大します。
水質汚染
過剰な窒素やリンなどの栄養素の流出は、地下水や河川、湖沼の水質を悪化させます。これにより、富栄養化や藻類の異常発生などの問題が引き起こされます。
温室効果ガス排出
土壌に有機物を含ませることや有機肥料の利用は、土壌中の有機炭素の蓄積を促進します。これは、二酸化炭素の大気への放出を抑制し、温室効果ガスの排出削減に寄与します。
生態系の破壊
過剰な化学肥料や農薬の使用は、土壌の微生物や生態系に悪影響を与えます。これにより、生態系のバランスが崩れ、生物多様性が減少する可能性があります。
適切な土壌栄養管理は環境保護と持続可能な農業に直接的に影響を与える、環境問題の予防と解決に向けた重要な手段なのです。
環境にやさしい肥料の選択
環境にやさしい肥料は、植物の成長をサポートしつつ、環境への悪影響を最小限に抑えます。環境にやさしい肥料をいくつか紹介します。
有機肥料
化学物質を含まず、動植物の排せつ物や堆肥、腐葉土、野菜くずなどの天然由来の材料から作られます。有機物の分解過程で栄養素が徐々に放出され、長期にわたって植物に栄養を供給します。
再生可能エネルギー肥料
再生可能エネルギー源から得られるバイオガスやバイオエタノールの副産物を利用した肥料は、二次利用であり、環境への負荷が低いです。
精製汚泥肥料
下水処理の際に得られる汚泥を利用した肥料は、資源の再利用を促進し、汚泥の適切な処理にも貢献することが出来ます。
微生物肥料
有用な微生物を含む肥料は、土壌の健康を改善し、植物の免疫力を向上させます。化学的な成分を含まないため、環境に優しいです。
天然鉱石肥料
鉱石や鉱石粉末を利用した肥料は、天然由来で土壌の栄養補給に役立ちます。環境への影響が少ないため、環境にやさしい肥料の一つとされます。
このように、環境にやさしい肥料は、化学的な添加物や有害物質の使用を最小限に抑え、土壌や地下水、周辺の生態系への影響を考慮したものです。地球環境への負担を減らしつつ、持続可能な農業や環境保護に貢献します。
おわりに
本記事では土壌中の栄養素についてご紹介しました。土壌中の栄養素というと色々あって難しそう‥というイメージのかたも、まずはご自身の作物の様子をみながら施肥してみると意外と面白いので、チャレンジしてみてくださいね。