論文タイトル
A new biostimulant derived from soybean by-products enhances plant tolerance to abiotic stress triggered by ozone
(大豆副産物由来の新規バイオスティミュラントがオゾンによって引き起こされる非生物的ストレスに対する植物の耐性を高める)
著者
Angel Orts, Salvadora Navarro-Torre, Sandra Macías-Benítez, José M. Orts, Emilia Naranjo, Angélica Castaño, Juan Parrado
発表雑誌
BMC Plant Biology (2024) 24:580
https://doi.org/10.1186/s12870-024-05290-3
論文の内容
地球温暖化や大気汚染の進行により、植物はこれまで以上に過酷な環境下での生育を強いられています。特に「オゾン(O₃)」は強い酸化作用を持つことから、植物の光合成を阻害することで、最終的には枯死や収量低下を引き起こすことが知られています。
本研究では、豆乳や豆腐の製造過程で生じる「おから」から、加水分解酵素処理により水溶性の抽出物(Okara Enzymatic Extract:OEE)を作製しました。OEEをトウガラシ(Capsicum annuum)の葉へ散布し、オゾンストレス下での植物の生育を評価しました。指標となる光合成パラメーター(光合成速度(AN)、電子伝達速度(ETR)、PSIIの量子効率(PhiPSII))を測定したところ、いずれもオゾンストレスによる大幅な低下は、OEE処理によって有意に抑えられました。加えて、OEE処理することで、オゾンストレスによるクロロフィル含量の低下が完全に抑制されることがわかりました。また、オゾンストレスによって光合成システム関連遺伝子の発現低下が起こりますが、OEE処理によりその低下は緩和されました。
さらに、抗酸化酵素であるCAT、SOD、GPXの活性を測定することで、オゾンストレスによる酸化ストレスの評価を行いました。興味深いことに、非オゾンストレス下においてOEE処理時でもわずかな抗酸化酵素の活性化は観察され、オゾンストレスによる抗酸化酵素の活性化が完全に抑制されることがわかりました。これは、OEEが適度な酸化ストレスを誘導し、そのあとのオゾンストレスから保護する作用を有するといった「ホルミシス様効果」を持ち合わせていることを示唆しました。以上のことから、OEE処理は植物に対してオゾンストレスに対する保護効果を付与していることが結論付けられました。今後の研究では、OEE中の生物活性化合物、特にイソフラボンが抗オゾンストレスに対して機能するかを明らかにしていくつもりであると書かれています。
研究者視点のコメント
ダイズに含まれる不溶性である食物繊維やイソフラボンなどの生物活性物質を、加水分解酵素を用いることで可溶性へ変換し抽出を可能にした手法は、他の産物から生物活性物質の抽出法にも応用できると考えました。
また本編では、OEEによるホルミシス様効果を考察しており、農業における「予防医学」のような役割を感じます。
植物には「ストレスメモリ」といった一度受けたストレスを記憶し、後の強い同じストレスに備える能力を持つことが報告されています。OEE処理はストレスメモリを誘発している可能性も考えられます。
本実験はトウガラシを対象とした短期的な室内試験に限られており、長期的な影響や収量への効果、他作物への応用性については今後の検証が求められます。また、OEE製造コストや安定供給体制の構築、実際の圃場条件での再現性など、実用化に向けた課題も明確です。
それでも、「廃棄物から価値を生む」という持続可能な農業資材の開発として、今後の広がりに大きな期待が寄せられます。おからのような未活用資源が、未来の農業を支える日もそう遠くないかもしれません。