論文タイトル
Do Lignin Nanoparticles Pave the Way for a Sustainable Nanocircular Economy? Biostimulant Effect of Nanoscaled Lignin in Tomato Plants
(リグニンナノ粒子は持続可能なナノ循環経済への道を開くか? トマト植物におけるナノスケールリグニンのバイオスティミュラント効果)
著者と所属
Ciro Tolisano 1,† , Dario Priolo 1,† , Monica Brienza 2, Debora Puglia 3,* and Daniele Del Buono 3,*
1 Dipartimento di Scienze Agrarie, Alimentari e Ambientali, Università degli Studi di Perugia, Borgo XX
Giugno 74, 06121 Perugia, Italy; [email protected] (C.T.); [email protected] (D.P.)
2 Dipartimento di Scienze, Università degli Studi della Basilicata, Via dell’Ateneo Lucano 10,
85100 Potenza, Italy; [email protected]
3 Department of Civil and Environmental Engineering, University of Perugia, Strada di Pentima 5,
05100 Terni, Italy
* Correspondence: [email protected] (D.P.); [email protected] (D.D.B.)
† These authors contributed equally to this work.
発表雑誌
Plants 2024, 13(13), 1839. doi: 10.3390/plants13131839
原論文 (Open Access): https://doi.org/10.3390/plants13131839
論文の内容
オリーブオイルの生産現場では、副産物として大量のポマース(搾りかす)が出ます。
ポマースの30~40%を構成するリグニンは植物ホルモン様の作用を持ち、植物の生育に良い影響を与えることが知られています。
リグニンだけでなく、リグニンをナノスケールの構造体に加工したリグニンナノ粒子(LN)にも同様の効果があることが最近わかってきましたが、LNは製造が難しいという問題がありました。
筆者らは「イオン液体」という特殊な溶媒を用いてポマースからリグニンを抽出し、リグニンの化学的な構造を維持しつつ、サイズの安定したLNを作り出すことに成功しました。
このLNが植物に与える影響を調べるため、LN溶液(25, 50, 100 mg/L)をトマトの葉にスプレーして生育を観察しました。LNを与えたトマトでは光合成の効率に関連した様々な指標が改善したほか、クロロフィル量の増加が確認されました。さらに葉の厚さや株全体の重さが増加し、根の伸長も促進されました。LNを与えることで植物の栄養状態を示す窒素バランス指数(NBI、クロロフィルとフラボノイドの比)が改善しており、光合成効率や根張りの向上を通して植物が無機栄養を効率よく同化できるようになったと考えられます。
これまでの研究でLN自体が光を集めるアンテナのような性質を持つことや、構成成分であるフェノール類が植物ホルモンのように働くことが示唆されています。筆者らはこれらの機能がLNによる光合成効率の向上や生長促進に寄与しているのではないかと考えています。
コメント
この研究は廃棄物問題と食料生産の両方にアプローチできる可能性を秘めています。
ただ、LNがすぐに有効資材として畑で使えるかというと、まだ考えるべきことはたくさんあります。まずはトマトが実をつけるまで、栽培全体を通しての効果、そして最終的な収量への影響を確かめる必要があります。また、LNの作用メカニズムや安全性もしっかり見ていく必要があります。そして、「イオン液体」を使った製造方法が、大量生産に向いているのか、経済的に見合うのかといった課題の検証も必要でしょう。
とはいえ、こうした課題があるからこそ研究の面白さや発展の余地があるとも言えます。農業廃棄物から生まれたナノバイオスティミュラントという発想は、これからの農業が目指す環境に優しく持続可能な姿に繋がる可能性を十分に感じさせてくれます。