気候変動とは?
まずは、気候変動の概要と影響について解説します。
地球温暖化の原因と影響
地球温暖化の主な原因は、人為的な温室効果ガスの排出増加にあります。化石燃料の燃焼による二酸化炭素(CO2)の排出が最も大きな要因となっています。
産業革命(1750年頃)以降、CO2濃度は約280ppmから約420ppmまで大幅に上昇しています。このCO2濃度の上昇が地球の平均気温の上昇を招き、気候変動の影響がさまざまな形で現れています。
主な影響としては、海面上昇、極端な気象現象の増加、生態系への打撃などが挙げられます。このままでは、食糧や水などの資源不足、感染症の拡大、紛争の増加など、人類に深刻な影響を与えかねません。地球温暖化対策を怠れば、将来的に経済・社会に甚大な被害がもたらされる恐れがあります。
以上のように、地球温暖化は人類共通の重大な課題であり、対策を急ぐ必要があります。
気候変動のリスクと日本への影響
気候変動は、自然災害の頻発や農作物の収穫量減少、生態系への影響など、様々な深刻なリスクを伴います。
特に日本では、以下のようなリスクが懸念されています。
- 豪雨や台風の大型化による洪水被害の増加
- 熱波による熱中症のリスク上昇
- 海面上昇による沿岸部の浸水被害の拡大
- 生態系の変化による農作物など食料生産への影響
例えば、2019年の東日本台風では、記録的な大雨により19都県で床上・床下浸水に見舞われました。このように気候変動は日本の生活に甚大な被害をもたらす可能性があります。
日本政府は気候変動対策を最重要課題と位置付け、対策に取り組んでいますが、企業や個人の行動も不可欠です。気候変動への対応力強化は喫緊の課題です。
気候変動対策の重要性
ここからは、気候変動対策の重要性について説明します。
パリ協定の目標と危険ライン
パリ協定は、2015年に開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択された国際的な合意です。産業革命以降の平均気温上昇を2℃未満に抑え、さらに1.5℃に抑える努力を追求することを目標としています。
しかし、現状の温室効果ガス排出量では、世界の平均気温は2100年までに3.7℃上昇すると予測されており(表1)、大きく目標を上回る危険な水準にあります。
表1:世界の平均気温上昇予測(IPCC第6次評価報告書) 1.5℃シナリオ: 2041-2060年に1.5℃上昇 2.0℃シナリオ: 2041-2060年に2.0℃上昇 4.4℃シナリオ: 2081-2100年に4.4℃上昇
気温上昇が2℃を超えると、熱波による死者数増加、水不足の深刻化、農作物の減収など、人類への深刻な影響が予測されています。このため、パリ協定の目標達成が不可欠です。
気候変動が生活に与える深刻な影響
気候変動の影響は、私たちの生活に様々な形で深刻な影響を及ぼします。代表的な影響としては以下のようなものが挙げられます。
- 自然災害の激甚化と増加 (豪雨、干ばつ、熱波など)
- 食料生産への影響 (収穫量減少、農作物の品質低下)
- 感染症の世界的流行リスク増加 (マラリアなどの感染症の蔓延範囲拡大)
- 水資源の枯渇 (水不足による生活用水や農業用水の確保困難)
このような気候変動の影響は、特に途上国の貧困層に大きな打撃を与えることが懸念されています。また、日本でも農業や水産業、観光業への影響などが予想され、国民生活に様々な形で影響が及ぶことが考えられます。
企業が取り組むべき具体的な対策
ここからは、企業が取り組むべき具体的な対策について紹介します。
温室効果ガスの削減
企業が気候変動対策として最も重要なのは、温室効果ガスの排出量を削減することです。主な取り組みとして、再生可能エネルギーの導入が有効です。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用すれば、化石燃料由来のCO2排出を大幅に抑えられます。
また、カーボン・オフセットの活用も有効です。これは排出した温室効果ガスの全部または一部を、他の場所での排出削減・吸収量でオフセット(相殺)する取り組みです。植林や再生可能エネルギー事業への投資などを通じて、企業の排出量を実質的に削減できます。
以上が温室効果ガス削減の主な取り組みです。企業は自社だけでなく、サプライチェーン全体でこうした対策を講じることが重要になります。
サプライチェーン全体での取り組み
企業は自社の事業活動だけでなく、サプライチェーンの上流から下流までを見渡し、バリューチェーン全体で気候変動対策に取り組む必要があります。
具体的には、以下のような対策が考えられます。
- 原材料調達時の温室効果ガス排出量の把握と削減
- 製造時の省エネと再生可能エネルギーの利用拡大
- 製品の輸送時の燃費向上と輸送効率の改善
- 製品の長寿命化や修理対応の強化による資源循環
また、次の表のように、サプライヤーや販売店などのバリューチェーンパートナーとも協力し、全体の排出量削減に取り組むことが重要です。
対象 | 取り組み |
---|---|
サプライヤー | 環境配慮型の原材料調達、グリーン調達の実践 |
自社 | 工場の省エネ化、再エネ導入、製品のライフサイクル評価 |
物流 | モーダルシフト、輸送距離短縮、エコドライブの推進 |
販売 | 環境配慮型商品の販売、省エネ型店舗の展開 |
このように、企業は自社だけでなくサプライチェーン全体で気候変動対策に取り組むことが求められています。
気候変動リスクへの対応力強化
気候変動はさまざまなリスクをもたらします。企業は自社のリスクを特定し、適切な対策を講じる必要があります。
具体的には、以下の点に留意する必要があります。
- 豪雨や洪水、干ばつなどの自然災害で事業が中断するリスク
- 気候変動で調達が困難になり、製品の生産や供給に支障をきたすリスク
- 炭素税の導入など、規制強化によるコスト増加のリスク
企業はこれらのリスクに備え、BCPの策定やサプライチェーンの多重化、再生可能エネルギーの利用促進など、さまざまな対策を検討する必要があります。
気候変動リスクへの備えが不十分だと、最悪の場合は事業の継続自体が危ぶまれかねません。企業経営にとって気候変動対策は避けて通れない課題なのです。
企業の先進的な取り組み事例
ここからは、気候変動問題に対する企業の対策事例を紹介します。
日本航空(JAL)の取り組み
JALは2009年に航空業界で初めて中期環境計画を策定し、CO2排出量の削減に取り組んでいます。
具体的な取り組みとしては、以下の3点が挙げられます。
- 航空機の燃費効率化 ・最新鋭の燃費効率に優れた航空機の導入 ・エコフライトの実施(燃料を節約する飛行方式)
- 地上での省エネ活動 ・エコエアポートの推進(空港施設での省エネ活動) ・グリーン地上車両の導入(電気自動車など)
- バイオ燃料の活用 ・持続可能な航空バイオ燃料の開発・実用化に向けた取り組み
このように、JALは航空機の運航から地上活動に至るまで、CO2排出量の削減に向けた様々な対策を講じています。
その他の企業の優れた事例
花王株式会社は、2019年に「花王サステナビリティ方針」を策定し、環境負荷の低減に取り組んでいます。具体的には、以下のような目標を掲げています。
- ・2030年までに温室効果ガス排出量を2017年比で35%削減
- ・2030年までにプラスチックの使用量を30%削減
また、植物由来の原料の調達にも注力しており、パーム油の持続可能な調達に向けた取り組みを推進しています。
ソニーグループは、グリーンマネジメント認証の取得や再生可能エネルギーの導入拡大など、事業活動における環境負荷低減に注力しています。
2021年には「グリーン・マネジメント2025」を策定し、以下の目標を設定しました。
目標項目 | 2025年度目標値 |
---|---|
再生可能エネルギー活用比率 | 35%以上 |
製品の省エネ性能 | 2018年度比30%向上 |
このように、企業は気候変動対策に向けて具体的な目標を掲げ、環境負荷低減に取り組んでいます。
個人でできる気候変動対策
ここからは、個人でできる気候変動対策について紹介します。
ライフスタイルの見直し
個人でも気候変動対策に取り組むことができます。まずは日々の生活の中で無駄なエネルギー消費を減らすことから始めましょう。
例えば以下のような取り組みが挙げられます。
【家庭での省エネ対策】
- 冷暖房の適切な温度設定(夏28度、冬20度)
- こまめな消灯
- 待機電力の削減(主電源オフ)
【マイバッグ・マイボトルの利用】
- レジ袋の削減
- ペットボトル削減
- 車の利用控え、公共交通機関の利用
- ごみの分別、3Rの実践(リデュース、リユース、リサイクル)
このように一人ひとりが意識を持ち、行動を変えていくことが重要です。小さな取り組みの積み重ねが大きな変化につながります。
環境活動団体への支援・参加
気候変動問題への取り組みには、個人の力だけでは限界があります。そこで、専門的な知識と実績を持つ環境活動団体に参加したり、寄付をすることで、大きな力になることができます。
主な環境活動団体には以下のようなものがあります。
団体名 | 主な活動内容 |
---|---|
WWF(世界自然保護基金) | 森林保護、再生可能エネルギーの普及促進 |
グリーンピース | 化石燃料への依存からの脱却を訴えるキャンペーン活動 |
気候ネットワーク | 気候変動対策に関する政策提言、普及啓発活動 |
REN21(再生可能エネルギー政策ネットワーク) | 再生可能エネルギーの導入促進に向けた取り組み |
これらの団体に寄付をしたり、ボランティア活動に参加したりすることで、気候変動対策に貢献することができます。個人の力は小さくとも、多くの人々が参加することで大きな変化を生み出せるはずです。
ダイベストメント(化石燃料関連投資の撤退)
ダイベストメントとは、個人や機関投資家が化石燃料関連企業への投資を撤退することです。気候変動対策の一環として、近年注目を集めている取り組みです。
具体的には、以下のようなメリットがあります。
- 企業に対して経済的な圧力をかけ、化石燃料からクリーンエネルギーへの転換を促す
- 機関投資家の投資姿勢が化石燃料関連企業の企業価値を下げ、株価下落などのリスクを高める
- 個人投資家の資金が化石燃料関連企業から撤退することで、同様の効果が期待できる
ダイベストメント運動は世界的に広がりをみせており、2021年時点で1,500を超える機関投資家や多くの個人投資家が賛同しています。日本でも、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が一部の化石燃料企業への投資を売却するなど、着実に広がりつつあります。
まとめ
気候変動は、私たち一人ひとりの生活に大きな影響を及ぼします。企業は温室効果ガスの削減や気候変動リスクへの備えなど、具体的な対策に取り組む必要があります。同時に、個人でもライフスタイルの見直しや環境活動への参加、ダイベストメントなど、できることから実践していくことが重要です。
この問題に対処するため、企業と個人が一丸となって取り組まなければなりません。気候変動への危機感を持ち、行動を起こすことで、未来の世代に良い地球を残せるはずです。
一人ひとりの小さな行動が、大きな変化を生み出します。企業と個人が協力し合い、それぞれの立場で最善を尽くせば、必ず前に進めるはずです。