農業用ドローンとは?
農業用ドローンとは、その名の通り農業の現場で活用されるドローンのことを指します。 主な用途としては以下の2つがあげられます。
- 用途1. 農薬散布
- 用途2. センシング(作物の生育状況把握など)
ドローンを使うことで、従来の農業作業に比べて大幅に効率化できるというメリットがあります。 また、人力に頼らずに作業できるため、農業の現場で深刻化している人手不足の解消にも一役買うことが期待されています。
このように、農業用ドローンの導入により、省力化と高度な精密作業の両立が可能となり、生産性の向上につながるのです。
農業用ドローンのメリット
ここからは、農業用ドローンのメリットを紹介します。
効率的な作業が可能
農業用ドローンを導入することで、農作業の大幅な効率化が期待できます。
例えば農薬散布の場合、従来の人力による散布と比べて以下のようなメリットがあります。
- 広範囲の散布が短時間で可能
- 人力では行き届かない場所への散布も可能
- 均一な散布パターンが実現できる
このように、ドローンを活用すれば作業時間の大幅な削減が見込めます。実際に農林水産省が行った試験では、10aの圃場で以下の結果が出ています。
人力散布 | ドローン散布 | |
---|---|---|
所要時間 | 1時間 | 5分 |
つまり、人力の約12分の1の時間で散布作業が完了するという、飛躍的な効率化が実現しているのです。
ドローンの導入により、限られた人員で広範囲の農地を効率良く管理することができるため、人手不足に悩む農業従事者にとっては大きな助けになります。
人力に頼らず労働力不足を解消
農業従事者の高齢化や後継者不足から、農作業の人手不足が深刻化しています。ドローンを活用することで、この課題を解決することができます。
ドローンは自動操縦が可能なため、熟練した操縦技術を持つパイロットが不要です。簡単な操作で農薬散布やセンシングデータの収集ができるため、農家の方々の作業負担を大幅に軽減することができます。
また、ドローンは1機で広範囲の農地を素早くカバーできるため、作業時間の大幅な短縮が期待できます。例えば、従来は人力で1日がかりの作業だったものが、ドローンを使えば1時間程度で終わるようになります。
作業内容 | 人力 | ドローン |
---|---|---|
農薬散布 | 8時間 | 1時間 |
モニタリング | 5時間 | 0.5時間 |
このように、ドローンは人手不足の解消に大きく貢献できる有力なツールとなっています。
環境にやさしい農薬散布が期待できる
農業用ドローンによる農薬散布は、従来の農薬散布方法に比べ環境への負荷が小さいと期待されています。
【従来の農薬散布方法の課題】
- 農薬が風に流されて周辺環境に影響
- 地面に農薬が残留し、土壌や地下水を汚染するリスク
【ドローン農薬散布のメリット】
- 散布量を最小限に抑えられる
- 風の影響を受けにくい
- 農薬が地面にむらなく行き渡る
つまり、ドローン農薬散布は「適量・適所・適時」に農薬を散布できるため、環境負荷が少なく済むと考えられています。
農業用ドローンの種類
ここからは、農業用ドローンの種類について詳しく紹介します。
農薬散布用ドローン
農業用ドローンには、農薬散布を主な目的とするタイプがあります。このドローンは農薬散布作業の効率化に貢献します。
従来の農薬散布は、人力による背負い式散布機や動力散布機、トラクターなどの車両に装着した散布機を使っていました。しかし、ドローンを使えば、人力に頼らず作業が行えます。
農薬散布用ドローンは以下の2種類があります。
種類 | 概要 |
---|---|
マルチロータ型 | 複数のプロペラで飛行。小回りが利く |
固定翼型 | 飛行機のように主翼で飛行。広範囲をカバー |
機種によって、航続時間や搭載量が異なります。作業する農地の広さや形状に合わせて、適切な機種を選ぶ必要があります。また、農薬散布には資格が必要になる場合が多いので、あらかじめ確認しましょう。
センシング用ドローン
センシング用のドローンは、農地の生育状況を空撮して画像データを取得することが主な目的です。ドローンに搭載されたカメラで撮影した画像を解析することで、作物の生育状況や病害虫の発生状況を把握できます。
【センシング用ドローンのメリット】
- 広範囲の農地の状況を俯瞰(ふかん)して確認できる
- 目視では気づきにくい異常を画像解析で発見できる
- 定期的なモニタリングにより適切な対策がたてられる
このように、センシング用ドローンは作物の生育管理に有効なツールとなっています。
農業用ドローンを選ぶポイント
ここからは、農業用ドローンを選ぶポイントを紹介します。
用途(農薬散布orセンシング)に合わせて選ぶ
農業用ドローンの選び方で最も重要なのは、用途に合わせて適切な機種を選ぶことです。主な用途は以下の2つに大別されます。
用途 | 主な機能 |
---|---|
農薬散布用 | ドローンから農薬を散布 |
センシング用 | 農地の生育状況を撮影・モニタリング |
農薬散布用ドローンは農薬タンクを搭載し、上空からピンポイントで農薬を散布することができます。一方のセンシング用ドローンは、カメラやセンサーを搭載し、作物の生育状況をリアルタイムで把握できるのが特徴です。
このように、農業用ドローンには専門特化した機種があるため、あらかじめ用途を明確にし、それに合った機種を選ぶことが大切です。用途を無視して機種を選んでしまうと、思ったような作業ができない可能性があります。
農地の広さに見合ったスペックを選ぶ
農業用ドローンを選ぶ際は、使用する農地の広さに見合った性能を持つ機体を選ぶ必要があります。作業範囲が狭ければ安価な小型機種でも十分ですが、広大な農地では飛行時間が長く航続距離に優れた大型機種が求められます。
具体的には以下の表を参考に、農地の面積から適切な機体サイズを選びましょう。
農地面積 | 適切な機体サイズ |
---|---|
〜5ha | 小型(3kg未満) |
5〜10ha | 型(3〜10kg) |
10ha以上 | 大型(10kg以上) |
また、農地の形状によっても求められる機体性能は変わります。長方形の農地では方向転換が少なく済むので航続時間重視、不規則な形状なら旋回性能が重要になるでしょう。このように、実際に使用する農地の条件を確認し、作業効率を考慮したスペックの機体を選ぶことが大切です。
自動飛行機能の有無で作業効率が変わる
農業用ドローンには、自動飛行機能の有無で作業効率が大きく変わります。自動飛行機能付きのドローンなら、あらかじめ設定した飛行ルートに沿って自動で飛行し、農薬散布やセンシングデータの収集を行えます。
一方、自動飛行機能がない製品は、常に操縦者が手動でドローンを操作する必要があります。下表のように、自動飛行機能の有無で作業効率が変わるため、ご自身の作業スタイルや用途に合わせて選ぶことをおすすめします。
自動飛行機能 | 作業効率 |
---|---|
有り | ◎ 設定したルートに従い自動で作業できるため、非常に効率的 |
無し | △ 操縦者の技術次第で作業効率が大きく変わる |
自動飛行機能付きのドローンは、操縦者の技術に頼らず一定の作業効率を保てるメリットがあります。しかし、ドローンの位置を常に監視し、危険時には手動で制御できる体制が必要になるなど、運用面での負担が増えることにもご注意ください。
安全性を重視する場合は認定機を選ぶ
農業用ドローンには、国土交通省から「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」に基づき認定を受けた機体と、そうでない非認定機があります。
認定機は以下の点で非認定機より安全性が高くなっています。
- 墜落時の安全対策が施されている ・障害物を自動で回避する機能がある
- 操縦を誤っても自動で着陸する機能がある
一方、非認定機は低価格ではありますが、上記の安全機能が備わっていない点が認定機との大きな違いです。
つまり、安全性を最優先する場合は、認定機を選ぶべきでしょう。ただし認定機は非認定機に比べ価格が高く、初期費用が嵩む点にも留意が必要です。農地の広さや用途に合わせ、コストと安全性のバランスを考慮して、適切な機種を選びましょう。
農業用ドローンの運用に必要な資格・免許
ここからは、農業用ドローンの運用に必要な資格や免許について紹介します。
農薬散布用ドローンは原則として資格が必須
農薬散布用ドローンを操縦する際は、原則として国土交通省から航空従事者学生 見習 操縦 士 免 許(農 薬 散 布) の取得が義務付けられています。この免許を取得するためには、以下の要件を満たす必要があります。
【免許取得要件】
- 満18歳以上
- 操縦技能審査に合格
- 法令に関する知識を有すること
- 身体検査に合格
特に操縦技能審査では、一定レベルの操縦スキルが求められます。適切なドローン操縦訓練を受講することが大切です。一方、国から安全性の認定を受けた「認定ドローン」を使用する場合は、一定の条件のもと免許は不要となります。ただし、製造業者の定める安全運用マニュアルに従う必要があります。
このように、農薬散布用ドローンの運用には、法令順守や安全運航が前提となります。ドローンの活用メリットを最大限に生かすには、関連法規を十分に理解し、適切な技能習得が不可欠です。
認定機か非認定機かで要件が異なる
農業用ドローンは、「認定機」と「非認定機」に分類されます。認定機とは、国土交通省により航空機として認定された製品です。一方、非認定機は認定を受けていない製品を指します。
認定機と非認定機では、操縦に必要な要件が異なってきます。
【認定機の場合】
- 無人航空従事者試験の受験が必須
- 操縦技能証明の取得が必須
【非認定機の場合】
- 無人航空従事者試験の受験は不要
- 操縦技能証明の取得は不要
- ただし、一定の知識と技能が求められる
認定機は、航空機としての安全性が一定レベル以上担保されているため、操縦資格要件が課されています。一方で、非認定機は小型軽量のため、比較的緩やかな要件となっています。ただし、農薬の適切な散布など、一定の知識と技能は必要不可欠です。
操縦技術の習得や法令遵守が求められる
農業用ドローンを安全に運用するためには、法令を遵守することが欠かせません。ドローンの操縦に関する技術的な要件も求められます。
具体的には、ドローンの飛行時に以下の点に注意する必要があります。
- 目視外を飛行させない
- 危険な飛行を行わない(人家付近や夜間の飛行など)
- 無人地帯での飛行高度制限を守る(150m以下)
- 第三者に対する安全を確保する
こうした安全運用のための技術力を備えるため、ドローン操作の訓練を受ける必要があります。また、農薬散布用のドローンを使う場合は、国から許可を受けた「航空従事者試験」に合格し、「無人航空従事者技能証明書」の取得が義務付けられています。
ドローン種類 | 必要な資格 |
---|---|
認定機(総重量200g以上) | 無人航空従事者技能証明書 |
非認定機(総重量200g未満) | 原則不要(一部自治体で条例あり) |
このように、農業用ドローンの運用には、安全運航に関する一定の基準が設けられています。法令を遵守し、技術を身につけることが重要です。
農業用ドローンの価格と補助金制度
ここからは、農業用ドローンの価格と補助金制度について紹介します。
価格は10万円前後から100万円以上まで幅広い
農業用ドローンの価格は、用途やスペックによって大きく異なります。
基本的な価格帯は以下のようになっています。
- 10万円前後の低価格帯:簡易的な農薬散布や空撮用のドローン
- 30万円前後の中価格帯:農薬散布や多目的センシング用のドローン
- 100万円以上の高価格帯:高性能な農薬散布や精密センシング用のドローン
価格が高くなるほど、以下のような高機能が搭載されています。
- 自動飛行システム
- GPSガイダンス
- 高精細センサー
- 大容量バッテリー
このように、農地の広さや用途に応じて必要な機能を選び、適正な価格のドローンを導入することが重要です。また、国や自治体では農業用ドローン導入に対する補助金制度があるので、活用すれば初期コストを抑えられます。
国や自治体による導入支援制度がある
農業用ドローンの導入費用は機種によって大きく異なりますが、一般的に高額です。そこで、国や自治体では補助金制度を設けて、農業従事者の導入コストを軽減する取り組みを行っています。
例えば、農林水産省の「スマート農業総合推進対策のうち機体導入支援事業」では、以下の補助率が設定されています。
【補助率】
- 認定農業機械化等支援対策事業(次世代を担う経営体への支援) 補助率1/3以内
- 強い農業・担い手づくり総合支援交付金のうち農業経営高度化支援 補助率1/2以内
このように、国による補助制度に加え、都道府県や市町村でも独自の支援制度を設けている自治体があります。導入を検討する際は、ぜひこうした公的支援制度を活用するようお勧めします。
おすすめの農業用ドローン製品
農業用ドローンには様々なメーカーの製品があり、用途や農地の広さなどに合わせて選ぶ必要があります。
国内メーカーからおすすめの製品をご紹介します。
【農薬散布用ドローン】
- 製品名:AGRAS MG-1P(DJI)
- 価格:約75万円
- 最大飛行時間:約22分
- 10Lの薬液タンク搭載
【センシング用ドローン】
- 製品名:GXV330(EFT)
- 価格:約34万円
- 最大飛行時間:約20分27秒
- 赤外線センサーやマルチスペクトルカメラを搭載
このように、用途やスペック、価格帯に応じて製品を選ぶことが重要です。操作性や安全性、アフターケアなども加味して、自分に合った製品を見つけましょう。
まとめ
農業用ドローンは、農薬散布や生育状況のセンシングなど、さまざまな用途に活用できる優れた農業機械です。
ドローンの導入によって、以下のようなメリットが期待できます。
- 効率的で人力に頼らない作業が可能
- 環境にやさしい農薬散布が期待できる
使用目的に合わせて、以下のような種類のドローンを選ぶことが重要です。
用途 | ドローンの種類 |
---|---|
農薬散布 | 農薬散布用ドローン |
生育状況のモニタリング | センシング用ドローン |
ドローンを運用するには、一定の資格や免許が必要となる場合があります。また、補助金制度を利用すれば、初期費用を抑えられるでしょう。
このように農業用ドローンは、導入前に知識を深め、適切な機種を選ぶことが大切です。ドローンの活用により、効率的で環境に優しい農業が実現できるはずです。