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SBTとは?認定取得するメリットや企業の取り組み事例を紹介

SBTとは?認定取得するメリットや企業の取り組み事例を紹介

近年、企業の環境経営への関心が高まる中、温室効果ガス排出削減に向けた取り組みが重視されています。 その一つが「Science Based Targets(SBT:科学的根拠に基づく目標)」の認定取得です。 SBTとは、パリ協定が求める「2℃目標」の達成に向け、企業が科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標を設定する仕組みです。 国際的なイニシアティブであるSBTイニシアティブが運営し、排出削減目標の承認を行っています。 本記事では、SBTの概要や認定メリット、認定プロセスと要件などを解説するとともに、日本企業のSBT取得状況と課題、今後の展望についてお伝えします。企業のサステナビリティ経営を後押しするSBTの仕組みを知ることで、読者の皆さまの環境対策の一助となれば幸いです。

SBTとは?

まずは、SBTとは一体何なのかを解説します。

概要と目的

SBT(Science Based Targets)とは、企業の温室効果ガス排出削減目標が、パリ協定が定める「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃未満に抑える」という目標と整合していることを認定する国際的なイニシアティブです。

SBTの目的は、企業に対して科学的根拠に基づいた削減目標の設定を求めることで、企業の環境経営を促進し、気候変動対策に貢献することにあります。

SBTは、以下の4つの条件を満たす必要があります。

  1. 企業全体の排出量を対象とする
  2. スコープ1、2、3の全ての排出を含む
  3. 2050年までに排出実質ゼロを目指す長期目標と整合する
  4. 最新の気候科学に基づいている

SBTを導入することで、企業は長期的な視点で環境経営を推進できるだけでなく、グローバルな環境規制にも対応しやすくなります。

SBTの認定基準

SBTイニシアティブが定めるSBTの認定基準には、以下の5つの要件があります。

  1. 排出量の算定範囲(スコープ) :スコープ1(自社の直接排出)、スコープ2(エネルギー起源の間接排出)、スコープ3(バリューチェーンの排出)のすべての排出を算定すること。
  2. 目標の野心度:パリ協定が目指す「2度目標」に整合する水準であること。一部のセクターでは「1.5度目標」も求められる。
  3. 目標対象範囲:企業全体の排出量を対象とする「全社目標」を設定すること。
  4. 目標年度:5〜15年以内の短期目標と、長期的には2050年までにネットゼロを目指す目標を設定すること。
  5. 報告と検証:毎年の進捗状況を公表し、第三者の検証を受けること。

このように、SBTはグローバルなベストプラクティスに基づき、野心的かつ透明性の高い目標設定が求められます。

SBTとRE100との違い

SBT(Science Based Targets)とRE100は、ともに企業の温室効果ガス排出削減に関する国際的なイニシアティブです。しかし、両者には以下のような違いがあります。

【SBT】 

  • パリ協定が求める産業別の削減目標に基づく 
  • スコープ1・2・3すべての排出を対象に削減目標を設定 
  • 第三者機関による目標の承認が必要

【RE100】

  • 再生可能エネルギー100%を目指す 
  • スコープ2(電力使用に伴う間接排出)のみが対象
  •  目標達成計画の報告は必須だが、第三者の承認は不要

つまり、SBTは総合的な排出削減目標を科学的根拠に基づき設定・認定するのに対し、RE100は電力の再生可能エネルギー化に特化していることが大きな違いです。

このように両者は目的や対象範囲が異なるため、企業によっては両方のイニシアティブに参加することで、より実効性の高い温室効果ガス削減を推進できます。

SBTの認定メリット

ここからは、SBTの認定メリットについて紹介します。

グローバルスタンダードとしての評価

SBTはCDPや国連グローバル・コンパクトなど、国際機関や主要なESG評価機関からグローバルスタンダードとして高く評価されています。

【主な評価機関・団体によるSBTの位置づけ】

  • CDP:サプライチェーン全体での排出削減に資する重要な枠組み 
  • 国連グローバル・コンパクト:ビジネスと人権に関する指導原則に沿った温室効果ガス排出削減目標設定の好事例 
  • FTSE Russellなど主要ESG評価機関:ESG評価の重要な指標の1つ

このように、SBTの認定取得は企業の環境経営の質を高める国際的な証しとなっています。 SBTイニシアティブは、2015年の採択から7年が経過し、参加企業数も急増しており、グローバル企業に広く浸透しつつあります。

サプライチェーン全体での排出削減

SBTを認定取得した企業は、自社の排出量だけでなく、サプライチェーン全体の排出量についても削減目標を設定することが求められます。

具体的には、以下の3つのスコープに分けて目標を立てる必要があります。

スコープ 内容
スコープ1 自社の事業活動から直接排出される温室効果ガス排出量
スコープ2 購入した電力の使用に伴う間接排出量
スコープ3 サプライチェーン全体(原料の調達から製品の廃棄に至るまで)の間接排出量

特にスコープ3が重要視されており、購入した原材料や製品の輸送、従業員の通勤・出張など、バリューチェーン全体の排出量についても削減目標を立てることが求められます。サプライヤーや顧客企業との連携が不可欠となるため、企業間での情報共有や協力体制の構築が鍵となってきます。

企業イメージ向上、ESG投資の呼び水

SBT認定を取得することで、企業は温室効果ガス排出削減への取り組みを対外的にアピールできます。 環境問題への真剣な取り組みは、企業イメージの向上につながります。 特に、国内外の環境意識の高い顧客からの評価が期待できます。

また、SBTの認定基準は国際的に認知されているため、ESG投資の指標としても有用です。 年金基金などの機関投資家は、SBT認定企業への投資を検討しやすくなります。 つまり、SBT認定は企業価値を高める重要な要素と言えます。

このようにSBTの認定取得は、企業の環境経営を対外的に示すシグナルとなり、イメージ向上やESG投資の呼び水になるのです。

SBTの認定プロセスと要件

ここからは、SBTの認定プロセスと要件について説明します。

認定を受けるための手順

SBTイニシアティブへの申請を行うには、以下の手順を踏む必要があります。

  1. 温室効果ガスインベントリー(排出量目録)の作成 自社の直接排出(スコープ1)と間接排出(スコープ2、3)の排出量を算定
  2. SBTツールを用いた目標値の設定 SBTツールに排出量などのデータを入力し、目標値を計算
  3. 申請書類の提出 計算した目標値や裏付けデータなどを添えてSBTイニシアティブへ提出
  4. 目標案の審査 提出された申請内容がSBTの認定基準を満たすかどうかを審査
  5. 認定取得 審査に合格すれば、SBTイニシアティブから正式に認定される

大企業と中小企業では求められる基準が異なり、中小企業向けの新制度が2024年1月から開始される予定です。

大企業と中小企業の要件の違い

SBTイニシアティブでは、大企業と中小企業で認定基準が異なります。大企業は従業員数500人以上、または年間売上高5億米ドル以上が対象となり、より厳しい基準が課されています。

一方、中小企業は従業員数500人未満かつ年間売上高5億米ドル未満と定義され、より緩和された基準となっています。具体的には以下の通りです。

大企業 中小企業
5-15年の長期目標設定が必須 5-10年の目標設定で可
スコープ3の排出量含む目標が必須 スコープ3は任意

このように、中小企業への配慮がなされていますが、2024年1月からはさらに制度が変更されます。中小企業に対しても、長期目標の設定とスコープ3の排出量目標の設定が義務化される予定です。

企業規模に関わらず、サプライチェーン全体での排出削減が求められるようになり、中小企業にとっても対応が重要になってきます。

2024年1月の中小企業向け制度変更

SBTイニシアチブは、2024年1月から中小企業向けのSBT認定制度を変更します。

具体的には、従来は中小企業の定義が従業員数500人未満と広範囲でしたが、これを従業員数300人未満に絞り込みます。また、削減目標の期間が従来の5年から10年に延長されます。

この変更は、より多くの中小企業がSBTの認定を受けやすくすることが目的です。削減目標の期間が延びることで、中小企業の負担を軽減できるためです。

一方で、従業員数が300人以上の企業は、大企業と同様の厳しい基準が適用されます。

従業員数 削減目標期間
300人未満 10年以内
300人以上 5年以内

このように制度が整備されることで、今後、より多くの中小企業がSBTの認定を取得できるようになると期待されています。

日本企業のSBT認定取得状況と取り組み事例

ここからは、日本企業のSBT認定取得状況と取り組み事例について紹介します。

業種別の認定企業数

SBTイニシアティブの公表データによると、2023年3月時点で世界で2,310社がSBTの認定を受けています。日本企業はここ数年で認定数を伸ばしており、2023年3月時点で369社が認定されています。

なお、日本では電気機器業界、自動車業界から認定を受ける企業が多くなっています。一方で製造業を中心に順調に認定数を伸ばす一方、金融業界からの認定はまだ少数に留まっています。サービス業の中でも小売業や不動産業から認定を受ける企業が出始めています。

このように、業種を問わずSBTの認定を受ける企業が増えつつあり、企業の脱炭素経営を後押ししています。

大手企業の取り組み事例

大手企業のSBTへの取り組みは着実に進んでいます。

ソニーグループは、2022年に「1.5℃目標で科学的根拠に基づく2030年目標」を新たに設定し、SBTの最新基準に適合しました。事業活動による排出(スコープ1・2)を2018年度比で94%削減、サプライチェーン全体(スコープ3)でも45%削減を目指します。

パナソニックホールディングスは、2021年に電池事業などの拡大に伴い目標を見直し、新たな目標を設定、2030年までに総排出量を2019年度比で39%削減する計画です。

また、りそなホールディングスは2022年5月に金融セクター向けの新基準でSBTを取得しました。

以上のように、製造業から金融業まで、さまざまな業種の大手企業がSBTを取得し、サプライチェーン全体での排出削減に取り組んでいます。

SBTの今後の課題と展望

ここからは、SBTの今後の課題と展望について紹介します。

鉄鋼・金融セクターの取り組み促進

SBTイニシアティブでは、これまで排出量の大きい鉄鋼セクターと、社会経済に大きな影響力を持つ金融セクターの取り組みが遅れていると指摘されています。そのため、両セクターに特化した新たな削減目標の設定方法を2022年に発表しました。

鉄鋼セクターでは、以下の2つのアプローチから目標を選択できるようになりました。

アプローチ 概要
1. 絶対的なセクター別減算アプローチ 鉄鋼協会の削減目標に整合した目標設定
2. 施設別の年間物理的強度目標 CO2排出原単位の継続的な改善を目指す

一方の金融セクターでは、投資・融資ポートフォリオの排出量を測定・報告し、温暖化ガス排出を毎年一定量削減する目標設定が求められています。こうした新基準により、両セクターの脱炭素化促進が期待されています。

ネットゼロ基準への移行

SBTイニシアティブでは、パリ協定の目標達成に向けて、2025年までにネットゼロ基準への完全移行を予定しています。現行のSBT認定基準は、2050年に向けた長期目標ですが、新基準では2050年よりも前倒しした2040年までにネットゼロを達成する中期目標の設定が求められる見込みです。

現行基準 ネットゼロ基準(案)
長期目標年 2050年 2050年
中期目標年 - 2040年
削減水準 1.5℃ライン ネットゼロ排出量

新基準への移行により、企業はより高い水準の排出削減を求められますが、一方でサプライチェーン全体でのネットゼロ達成に向けた包括的な取り組みが可能になります。SBTイニシアティブは、新基準の詳細と移行期間を2023年中に発表する予定です。

中小企業の認定取得促進

中小企業にとって、SBTの認定取得は大きな課題となっています。これまで大企業が中心となってSBTに取り組んできましたが、2024年1月からは中小企業向けの新制度が開始されます。

新制度では、従来よりも緩和された要件が設けられる見込みです。例えば、排出量の算定範囲を絞ることが可能になるなどの対応が期待されています。

このように、中小企業向けの制度整備が進められているのは、サプライチェーン全体で排出削減に取り組むためです。中小企業は大企業のサプライチェーンの一翼を担っており、その協力が不可欠だからです。

一方で、中小企業にとってSBTの認定取得は、以下のようなメリットもあります。

  • グローバル企業との取引機会の増加 
  • 優良企業としてのイメージアップ 
  • ESG投資の対象として注目される可能性

このように、中小企業においてもSBTの認定取得は大きな意義があります。今後、より多くの中小企業がSBTに取り組むことが期待されています。

まとめ

今回は、SBTについて詳しく解説してきました。SBTは、企業の温室効果ガス排出削減目標を国際的な枠組みで科学的に評価・認定する制度です。

グローバルスタンダードとしての評価が高く、サプライチェーン全体での排出削減や企業イメージ向上、ESG投資の呼び水にもなるため、SBT認定を取得するメリットは大きいと言えます。

一方で、特に鉄鋼や金融セクターでの取り組みが遅れているほか、中小企業の認定取得が課題となっています。2024年1月からは中小企業向けの新しい制度も始まるため、より多くの企業がSBTに取り組めるようになると期待されます。

今後はネットゼロ基準への移行など、SBT制度そのものの進化にも注目が集まるでしょう。

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